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名古屋地方裁判所 平成8年(ワ)4029号 判決 1997年5月30日

甲事件原告

日新火災海上保険株式会社

乙事件被告

鈴木和子

甲事件被告、乙事件原告

片山賢司

主文

(甲事件について)

一  甲事件被告片山賢司は、甲事件原告日新火災海上保険株式会社に対し、金一四四万円及びこれに対する平成八年一一月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  甲事件原告日新火災海上保険株式会社の甲事件被告片山賢司に対するその余の請求を棄却する。

(乙事件について)

三 乙事件被告鈴木和子は、乙事件原告片山賢司に対し、金八万八〇〇〇円及び内金八万円に対する平成八年一月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四 乙事件原告片山賢司の乙事件被告鈴木和子に対するその余の請求を棄却する。

(訴訟費用について)

五 訴訟費用は、甲事件及び乙事件を通じて、これを一〇分し、その一を甲事件原告日新火災海上保険株式会社及び乙事件被告鈴木和子の負担とし、その余を甲事件被告、乙事件原告片山賢司の負担とする。

事実及び理由

(以下においては、甲事件原告日新火災海上保険株式会社を「原告会社」と、乙事件被告鈴木和子を「被告鈴木」と、甲事件被告、乙事件原告片山賢司を「被告片山」とそれぞれ略称する。)

第一請求の趣旨

一  甲事件

被告片山は、原告会社に対し、金一五六万円及びこれに対する平成八年一一月四日(本訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

【訴訟物―民法七〇九条に基づく損害賠償請求権及び民法所定の遅延損害金請求権、商法六六二条に基づく保険代位。】

二  乙事件

被告鈴木は、被告片山に対し、金四五万円及び内金四〇万円に対する平成八年一月一六日(本件不法行為の日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

【訴訟物―民法七〇九条に基づく損害賠償請求権及び民法所定の遅延損害金請求権。】

第二事案の概要

本件は、信号機のない交差点において、被告鈴木運転の自動車と被告片山運転の自動車とが出合い頭に衝突した結果、原告会社は、被告片山に対して、本件事故によつて生じた訴外人の車両損害(全損)につき保険金を支払つたとして、保険代位によりその求償として金員の支払を求めた(甲事件)のに対し、本件事故によつて車両損害(全損)を受けた被告片山が、被告鈴木に対して、民法七〇九条により右損害の損害賠償を求めた(乙事件)事案である。

一  前提となる事実

1  事故(以下「本件事故」という。)の発生(争いのない事実)

(一) 日時 平成八年一月一六日午前八時五分ころ

(二) 場所 愛知県稲沢市子生和八島町二四番地先道路の交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 原告会社 普通乗用自動車(尾張小牧三三た三四五一)

車両 (以下「原告車」という。)

右運転者 被告鈴木

右使用権者 訴外有限会社鈴木鉄工所(以下「訴外会社」という。)

(四) 被告片山 普通乗用自動車(尾張小牧五九ぬ九二二)

車両 (以下「被告車」という。)

右運転者 被告片山

(五) 事故態様 本件交差点において、被告鈴木運転の原告車と被告片山運転の被告車とが出合い頭に衝突した。

2  保険契約等(甲第一ないし甲第四号証、弁論の全趣旨)

(一) 保険契約

原告は、訴外鈴木正男との間において、平成七年一〇月三〇日に、次のとおりの保険契約を締結した。

(1) 保険の種類 車両保険

(2) 保険金額 車両金一九五万円

(3) 被保険自動車 原告車

(4) 保険期間 平成七年一一月二日から一二ケ月

(二) 保険金の支払

原告は、前項の保険契約に基づき、平成八年五月三一日に、訴外会社に対して、車両保険金一九五万円を支払い、商法六六二条一項の規定により損害賠償請求権(求償権)を代位取得した。

二  原告会社及び被告鈴木の主張

1  本件事故の態様について〔過失相殺〕

本件事故の態様は、被告鈴木が原告車を運転して南方から北方に優先道路を走行して本件交差点に進入したところ、被告片山が一時停止の表示を無視して、西方から本件交差点に進入したために原告車と被告車とが衝突したものである。

本件事故における被告片山の過失は八割とするのが相当である。

2  原告会社の損害

原告車全損による損害 金一九五万円

三  被告片山の主張

1  本件事故の態様について〔過失相殺〕

本件事故の態様は、被告片山が被告車を運転して西から東に直進するに際して、一時停止の標識に従つて一旦停止し、左右の安全を確認したうえで発進したところ、南から進行して来た被告鈴木が時速一〇〇キロメートルで走行し、自車前部を被告車の右側面に衝突させ、被告車を北東角の水路に横転させ、自車は南東へ約三五メートルも暴走させたというものであつて、全責任は被告鈴木にあり、仮に被告片山に何らかの過失があるとしても軽微である。

2  被告片山の損害

一 被告車全損による損害 金四〇万円

二 弁護士費用 金五万円

四  本件の争点

まず、被告片山は、原告会社及び被告鈴木主張の損害額を争うとともに、本件事故は、被告鈴木の過失によるものが大であるとして、前記のとおりの過失相殺を主張する。

これに対して、原告会社及び被告鈴木は、被告片山主張の各損害額を争うとともに、本件事故についての責任は被告片山にあると主張して前記のとおりの過失相殺を主張する。

第三争点に対する判断

一  本件事故の態様及び過失相殺について

1  前記の前提となる事実及び証拠(甲第一号証、甲第六ないし甲第八号証、乙第四号証の一ないし七、被告鈴木本人尋問の結果、被告片山本人尋問の結果<ただし、後記の採用しない部分は除く。>、弁論の全趣旨)によれば、以下の各事実が認められる。

(一) 本件交差点の状況としては、

本件交差点の南北の道路(被告鈴木はこれを南から北に向けて走行していた。以下「南北道路」という。)は、中央線の設けられていない直線の道路であり、被告片山が南北道路に出てきた場所において南北道路に交差する形で東西に走る道路(被告片山はこれを西から東に向けて走行していた。以下「東西道路」という。)は、中央線の設けられていない直線の道路であること、右の東西道路と南北道路とが交差する部分には、横断歩道等の設備は設けられてはいないこと、本件交差点付近の南北、東西の各道路は平坦で、アスフアルト舗装がなされていること、本件交差点の道路規制としては、被告車が走行していた東西道路が本件交差点に進入する際には、一時停止の標識があり、東西道路上にもその旨の表示がなされ、結局は、南北道路が優先道路となつていること、南北、東西の各道路は、いずれも田地の中を走る直線道路であつて、本件交差点の見通しについては、原告車及び被告車のいずれから見ても極めて良いこと、

(二) 本件事故の態様としては、

被告片山運転の被告車が、南北道路を横断して東進しようとして、本件交差点に進入する際に、被告片山は、十分な一時停止をすることなく、しかも、右手(南側)方向の優先道路の安全を確認しないで進行したところ、南北道路を時速約四〇~五〇キロメートル位のスピードで直進してきた被告鈴木運転の原告車と出会い頭に衝突したこと、<右認定に反する被告片山本人の供述は、前掲の各証拠に照らして、これを採用することができない。>

2  以上認定の各事実により、被告片山及び被告鈴木の過失について判断する。

(一) まず、被告片山の過失については、

被告片山は、優先道路となつている南北道路を横切つて横断しようとしたのであるから、道路標識に従つて一時停止をして、南北道路を走行して来る車両の有無、動静を十分に確認して横断すべき義務があるのに、横断する南北道路の右方(南の方向)の安全を何ら確認することなく、漫然と本件交差点に進入したものであるから、被告片山には優先道路の車両の通行を妨害したという重大な過失があつたといわざるを得ないこと、

(二) これに対して被告鈴木の過失については、

被告鈴本としては、自己が走行していた南北道路は優先道路であつたものの、本件交差点には、南北道路と交差する東西道路があつたのであり、そこを走行していた被告車の存在を認識していたのであるから、被告車の動静を十分に確認して走行すべき義務があり、被告鈴木が十分に減速して走行していれば、制動及びハンドル操作によつて本件事故を回避できる可能性は十分あつたと認められるから、被告鈴木には、減速しないで漫然進行し、かつ、その進行左方向の安全を十分に確認しないで走行した過失があつたといわざるを得ない。

3  過失割合について

以上によれば、本件事故は、被告片山の過失と、被告鈴木の過失とが競合して発生したものといえる。

そして、前記認定の諸事情に照らせば、被告片山と被告鈴木との過失の割合については、被告片山(被告車)が八割、被告鈴木(原告車)が二割と認めるのが相当である。

二  原告会社の損害について

原告車の毀損に伴う車両損害について(請求額金一九五万円)

認容額 金一八〇万円

証拠(甲第三号証、乙第二号証の一、二、乙第三号証、被告鈴木本人、弁論の全趣旨)によれば、原告車は、大きく損壊し、その修理費用は、本件事故当時の原告車の現存価格を大きく上回ることとなり、結局は、訴外会社は、本件事故により車両全損の被害を受けた事実を認めることができる。

そうすると、右の各証拠によれば、原告車の毀損に伴う車両損害については、本件事故当時の原告車の現存価格を基にして、本件事故と相当因果関係を有する右損害額は、金一八〇万円であると認めるのが相当である。

三  被告片山の損害について

被告車の毀損に伴う車両損害について(請求額金四〇万円)

認容額 金四〇万円

証拠(乙第一号証の一、二、被告片山本人、弁論の全趣旨)によれば、被告車は、大きく損壊し、結局は、被告片山は、本件事故により車両全損の被害を受けた事実を認めることができる。

そして、右の各証拠によれば、被告車の毀損に伴う車両損害については、本件事故当時の被告車の現存価格を基にして、本件事故と相当因果関係を有する右損害額は、金四〇万円であると認めるのが相当である。

四  責任原因について

1  被告片山の責任原因

被告片山は、前記一で認定のとおりの安全確認の注意義務違反という過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づき、これによつて生じた原告会社の本件損害を賠償する義務がある。

2  被告鈴木の責任原因

被告鈴木は、前記一で認定のとおりの安全確認の注意義務違反という過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づき、これによつて生じた被告片山の本件損害を賠償する義務がある。

五  具体的損害額について

1  原告会社の具体的損害額

そうすると、前記二で認定のとおり、本件で原告会社が被告片山に対して請求しうる損害賠償の損害額は金一八〇万円であり、前記一で認定の過失割合による過失相殺をすれば、原告会社の具体的な損害賠償請求権は金一四四万円となる。

2  被告片山の具体的損害額

そうすると、前記三で認定のとおり、本件で被告片山が被告鈴木に対して請求しうる損害賠償の損害額は金四〇万円であり、前記一で認定の過失割合による過失相殺をすれば、被告片山の具体的な損害賠償請求権は金八万円となる。

六  被告片山の弁護士費用について(請求額金五万円)

認容額 金八〇〇〇円

本件事故と相当因果関係のある被告片山の弁護士費用相当の損害額は、金八〇〇〇円と認めるのが相当である。

七  結論

1  甲事件について

被告片山は、原告会社に対して、本件損害賠償金一四四万円及びこれに対する平成八年一一月四日(本訴状送達の日の翌日)から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

2  乙事件について

被告鈴木は、被告片山に対して、本件損害賠償金八万八〇〇〇円及び内金八万円に対する平成八年一月一六日(本件不法行為の日)から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 安間雅夫)

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